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去年一年間、当サイトのトップページにて、「買いましょう!キャンペーン」を行って来た。当方が独断で選んだ超絶オススメ書籍を三冊、「ぜひ、購入して読んでね(はあと)」と紹介してきた。
2007年度も、新たに三冊を選んで「買いましょう!キャンペーン2007」を行いたいと思っている。(ただし、ズボラなのでトップページの修正は気が向いたら。) 『新選組の遠景』野口武彦(集英社) 『八王子千人同心』吉岡 孝(同成社) 『江戸時代の身分願望』深谷克己(吉川弘文館) 以上の三冊である。各書について、少々、書いてみたい。 ■『新選組の遠景』野口武彦(集英社)■ 2004年に出た本なので、新選組愛好者の中には既に持っている人も多いかもしれない。内容はエッセイ風であり、学術書ではない。しかし、そこは野口が著者なだけに、ちゃんと史料にあたって文を書いていることに好感を持つ。 しかし、当方が一番面白いと思ったのは、実は「あとがき」である。ここで野口は、昨今、アカデミズムの領域において新選組が取り上げられることになった状況を眺め、アカデミズムの研究者が非アカデミズムの研究者によってなされた新選組研究へ苦言を呈している事に、軽やかな批判を行っている。 これで思い出されるのは、当サイト「キャンペーン2006」で推薦している松浦 玲の『新選組』(岩波新書)である。確かに、松浦はこの著書において非アカデミズムの研究者による新選組研究へ苦言を呈している。 しかし松浦の苦言は、確かに苦言ではあるが、非アカデミズムの新選組研究が新選組像を歪めてきたという「ある事実」の指摘でもあるのだ。そして、この指摘を行うことが出来る存在は、そうはいないはずだ。いわば歴史一本で飯を食い、その世界で一定の尊敬を集める松浦だからこそ、この指摘が出来たのだ。 当方は、思う。これはいつか誰かがやらねばならないことであったと。そして、それをやった松浦は確かに、非アカデミズムの研究者達やその関係者達からみれば「面白くない存在」と映ったかもしれない。だが、松浦にとっても、こんなことを指摘するのは、随分とリスクであったに違いないのだ。 それを敢えてやったのは、歴史を歪めることを傍観出来ないという歴史家としての矜持からであろう。同じく当サイトの「キャンペーン2006」で推薦している本の著者である宮地正人も、新選組研究の本を出した動機の一つに、新選組を扱った小説が、皮肉にも新選組の思想性や政治性をこの組織から剥奪してしまったということに対して、懸念であったと述べている。これもまた、歴史家の矜持からであろう。 そう言えば、『史学雑誌』において、鵜飼政志が松浦の『新選組』について触れていたのを読んだことがある。長年アカデミズムの枠外の置かれてきた新選組研究に、やっと松浦が光を当てたことに安堵感を表明していたと記憶している。 だが、野口は「あとがき」において、アカデミズムが新選組を正史に登場させることなく放置して来たこと自体が、新選組像の歪みを招いたのだと喝破している。これは正論である。そしてその上で、非アカデミズムの研究者やファン達の新選組に対する愛情を感じ取ることが出来なければ、「歴史学」というジャンルそのものが痩せる(=ジャンルとして縮小する)と書いている。これも卓見である。おそらく、これは野口の実感から出たものであろう。 というのも、野口は学術本や論文を読むことがない層に向けて、歴史の著述を行っているからだ。世の中において、歴史の学術本や論文を読む人々というのは極めて少数派である。だが、「歴史」というのは全ての人々の共有物であって、少数派の私物ではない。少数派はその道のプロとしての自負があるが、必ずしも少数派以外の人々(=多数派)はプロの仕事を従順に受け入れるとは限らないのだ。世の中に「トンデモ説」のようなものが蔓延る理由はここにある。しかし、プロはプロである以上、「トンデモ説」が蔓延ることを放置すべきではない。野口が学術本や論文を読むことがない層に向けて著述を行っているのは、そのような背景があると当方は推測している。 そういった意味では、松浦や宮地がアカデミズムの範疇に新選組研究を組み込もうとした試みもまた、プロの使命がさせたものであろう。方向性として間違っていないと思えるし、根本において野口、松浦、宮地は大いに共通している。歴史というものへの純粋な愛の保持である。 ■『八王子千人同心』吉岡 孝(同成社)■ 実は、松浦や宮地以前に、アカデミズムの立場から新選組を語った本があった。それが吉岡の『八王子千人同心』である。当方は、同著者の『江戸のバガボンドたち』という本は読んだことがあったが、こちらは読んでいなかった。当方が世話になっているパルティアホースカラー氏のブログで紹介されていたのをきっかけに読んだところ、実はこの本の後半において、かなり丁寧に新選組が論じられているのを知ったのだ。 八王子千人同心と新選組は直接関係無いと言えばそうなのだが、「いとこ」みたいな関係と言えばそうだとも思える。多摩という土地と密接に関係ある二つの組織は何かを共有しつつ、しかし根本的に何かが違っている。 それは、上から組織された集団であるか、勝手に徒党を組んだ組織であるか、という点である。新選組は後者である。そして、この点を吉岡は注意深く論じる。ここに新選組という組織の近代性があるからである。そしてそこから、新選組という組織を生み出した幕末日本の近代性を透視するのである。 吉岡はこの著書において、新選組をアカデミズムの範疇で論じて行く場合の一つの好例を示したと言える。しかし、これは吉岡が切り開いた地平ではない。吉岡がここに至ったのは、鶴巻孝雄の先行研究があったからである。なので、『八王子千人同心』を読むのと併行して鶴巻の論文(「<国家の語り>と<情報>-地域指導層の国家・社会意識と諸活動をめぐって-」/『民衆運動史4 近代移行期の民衆像』青木書店)を読むと面白い。また、ウェッブ上に別の論文もPDFで発表している。こちらは更に面白く意義深い。 ■『江戸時代の身分願望』深谷克己(吉川弘文館)■ 吉岡 孝の著書を読んだ後、この深谷克己の著書を読むと、ある共通項に気付く。それは新選組愛好者ならば、新選組を語る上でなにかと言及されることの多い「身分」というものである。 この本はそのタイトル通り、「身分」について論じたものであって、新選組を主体的に扱った本ではない。しかし、近世庶民の「身分」への認識を論じ続けた最後に、幕末期の多摩を論じ、最後の最後に甲陽鎮撫隊を論じて〆ている。 この甲陽鎮撫隊に関する著述が素晴らしい。特に、大久保剛というか近藤 勇というか、甲陽鎮撫隊長に関しての解釈は、12月29日に紹介した歴史サークル・ヤ撃団が去年の夏に出した本と同じ解釈をしている。実は、ヤ撃団関係者に、「最近出た深谷克己の本が同じ見方をしていたよ。」と告げたところ、「普通に考えれば、この見方に導かれるはず。」と言われたのだが、当方はかつて、ヤ撃団や深谷と同じ解釈を他で読んだことがなかった。何故、普通に考えれば導かれるはずの解釈が今まで出てこなかったのか? 逆に言えば、深谷の様な象牙の塔において一定の評価を得ている近世史研究者にとっては普通に想定出来ることが、非アカデミズムの研究者達には想定出来なかったということであり、これは前出の松浦 玲の苦言にも繋がることである。と、同時に、学術的な視点から甲陽鎮撫隊が検討されることが今まで無かったということであり、これは前出の野口の批判にも繋がることなわけである。 当方にとって、深谷のイメージは「百姓一揆を研究している人」というイメージであった。正直、この本を読む直前、「何故に百姓一揆の研究者が新選組に言及するのだろう?」と思ったのだが、読後、深谷が新選組を取り上げた意味が解かった。 よく考えてみれば、土方歳三などは「身分」としては純粋に百姓だったわけである。その百姓が浪士を騙って京に上るという事自体、形を変えた百姓一揆みたいなものである。庶民の突き上げるパワーが感じられるのだ。深谷が語りたかったのは、そういう「庶民パワー」についてであり、それは来るべき「市民社会=近現代」のプレ期に幕末が相当することを、新選組という道具を使って証明してみせたのだ。 読み終わって、新選組の大河ドラマに出てきたあるシーンを思い出した。近藤 勇と新選組から離れた伊東甲子太郎がほの暗い一室で、丁丁発止で語り合うシーンである。あの時の近藤のセリフが、この深谷の著書を読んだ今は、とても良く分るのである。 【この記事を読んだ人にお薦めの過去記事】 近代・前近代 |
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『新選組の遠景』、『八王子千人同心』、『江戸時代の身分願望』、どれも色んな人に推薦したい書籍ですね。私でも、松浦玲・宮地正人・大石学に続いて、これらの書籍をオススメ作品に選びます。
特に、吉岡氏と深谷氏の本については、タイトルに「新選組」と付いていないだけに、新選組ファンが見落としている場合も多いと思いますし、そうだとしたら非常に勿体ないことだと思いますので、こうやって記事にされて推薦することには、大きな意義があると思います。 今年の初めに私のブログに載せた新選組関連文献リストの記事に、コチラの記事を紹介する文章を追記した上で、トラックバックさせていただきました。 パルティアホースカラーさん、ありがとうございます!
ブログで何かと恩恵に預かっているパルティアホースカラーさんからそう言って頂けると、大変心強いです。 確かに、『八王子千人同心』と『江戸時代の身分願望』は書店でも新選組コーナーに並べられてはいないでしょうし、新選組のことが書かれているとは想像もつかない新選組ファンも多いと思います。 当方もパルティアホースカラーさんに教えて頂いたので、こうして自分のブログに記事が書けたわけで、今回のこの記事を読んだ誰かがまた誰かに伝える…という形で、これらの著書のことが広まってゆくといいなあと思います。 僭越ながら、当方のこの記事もパルティアホースカラーさんの記事にTBさせて下さい。
【2007/01/13 21:40】| | くるす #92d83c5454 [ 編集 ]
野口氏の本は知っていましたが、『八王子千人同心』と『江戸時代の身分願望』は仰るように見落としてしまう本ですね。ご紹介頂きましてありがとうございます。
大河での勇と伊東の会話の場面がとても好きでしたので、深谷氏の本は非常に興味深いです。 早速、買いましょう!キャンペーンに乗らせて頂きます! isakoさん、ありがとうございます。
>大河での勇と伊東の会話の場面がとても好きでしたので あの場面は、あのドラマの白眉ですよね。私もとても好きで、忘れられないシーンの一つであります。 吉岡氏の本も深谷氏の本も、既存の新選組に関する著述とは違っていて、大変面白いです。是非、お読みになって下さい。
【2007/01/16 00:04】| | くるす #92d83c5454 [ 編集 ]
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新年の挨拶がかなり遅れてしまいましたが、明けましておめでとうございます。このブロ 【2007/01/13 11:44】 | つばめ飛ぶ 餌を取りては 子のもとへ |

